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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)2683号 判決

原告 若松正一

右訴訟代理人弁護士 大島正義

被告 森本幸平

右訴訟代理人弁護士 大道寺徹也

主文

被告は原告に対し、金五八八、四三五円およびこれに対する昭和四二年三月二七日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

一、当事者の求める裁判

(原告)

「被告は原告に対し、金一、五三一、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言。

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決。

二、請求の原因

(一)  原告と被告はともに不動産取引業者であるが、原告は昭和四〇年四月なかば頃、訴外株式会社国分商店(以下訴外国分商店という)から、同会社相談役の肩書を持つ被告を介して別紙物件目録記載の不動産(以下本件不動産という)の売却斡旋方を依頼された。仮にそうでないとしても、国分商店から本件不動産の売却斡旋方を依頼された被告から、その頃その売却斡旋に協力されたい旨の依頼を受けた。

(二)  原告は右依頼に応じ、昭和四一年七月三〇日、本件不動産を訴外田山正三に代金四九、〇三六、二六〇円で売却する契約を成立させ、同年八月二九日代金支払いと所有権移転登記手続とを済ませ、右取引を完了させた。

(三)  前項の売買契約締結の際、売買当事者および原告被告の間で売買仲介料は訴外国分商店のみが支払い、被告において責任をもって取立てた上、原告に交付する旨の特約が締結された。

(四)  原告が受け取るべき仲介料は宅地建物取引業法第一七条一項の規定により、本件売買代金に照らし、金一、五三一、〇〇〇円である。

(五)  被告は取引終了後訴外国分商店から本件売買の仲介料として金一、四七一、〇八八円を受け取った。

(六)  よって、原告は被告に対し、(四)記載の金一、五三一、〇〇〇円およびこれに対する遅延損害金として訴状送達の日の翌日である昭和四二年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める。

三、請求原因に対する答弁

(一)  請求原因(一)の事実のうち、原告・被告がともに不動産取引業者であること、および被告が国分商店の相談役であり、同会社から本件不動産の売却斡旋の依頼を受けたことは認めるが、原告に対して訴外国分商店が被告を介して売却斡旋を依頼したこと、および原告が被告から売却斡旋につき協力方の依頼を受けたことはいずれも否認する。

(二)  同(二)の事実のうち、原告が仲介したことは否認するが、同項記載のとおりの契約が成立し、その取引が完了したことは認める。右売買契約の成立、取引の完了は被告の仲介斡旋によって行われたものである。

(三)  同(三)の事実はすべて否認する。

(四)  同(四)の事実は知らない。

(五)  同(五)の事実のうち、被告が原告主張の金員を訴外国分商店から受領したことは認めるが、これは被告が売主訴外国分商店を仲介した報酬であって、その中には原告の取分は含まれていない。

四、証拠≪省略≫

理由

一、原告と被告がともに不動産取引業者であること、別紙物件目録記載の不動産(以下本件不動産という)につき、売主訴外株式会社国分商店(以下訴外国分商店という)と買主訴外田山正三との間に、昭和四一年七月三〇日売買契約(以下本件売買契約という)が成立し、同年八月二九日、本件売買契約に基づき、代金の支払いと所有権移転登記手続がなされ、取引が完了したこと、および被告が取引終了後本件売買の仲介料として訴外国分商店から金一、四七一、〇八八円を受領したことは当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫を総合して検討すると、次の経過を認めることができる。

(イ)  被告は宅地建物取引業者の資格があったので、かねてから、訴外国分商店の相談役という肩書で、同会社が不動産の取引をする場合に専属的にこれを処理していたが、定期的な給与などは支給を受けず、その処理した都度業者としての報酬を貰っていたものであるが、不動産取引の斡旋仲介の経験は比較的少なかったこと、

(ロ)  昭和四〇年二月頃同会社は被告に本件土地の売却処分方を委託したこと、

(ハ)  その後間もなく、被告はかねて同業者として顔見知りの原告に対し、自己が国分商店から本件土地の売却方を委託されていることを話し、買手についての情報交換その他についての協力方を依頼したこと、

(ニ)  原告は被告の右依頼に応じて昭和四〇年四月頃現地を検分したが、その後、同業者である訴外田山力夫の事務所を訪ねたところ、本件不動産は既に別のルートから売り物に出されて田山自身も買手を求めていたことがわかった。そこで原告は田山と相談の上、坪当り八〇、〇〇〇円で売ることにつき被告を通じて国分商店の諒解を得たこと、その後も原告および田山力夫は二、三の買受希望者に当って売却方の折衝を重ねたが、国分商店が土地を分割して売却することを好まなかったなどの事情等から容易に売買は成立しなかったものであるが、その間原告は右売却方のため被告と同道のうえ国分商店に三回あまりも出向いたこと、そして結局田山力夫の弟である田山正三が本件不動産を買うこととなり、同人と国分商店との間に前示のように本件不動産についての売買契約が成立するに至ったものであるが、その際にも原告は右田山から坪当り八〇、〇〇〇円の値段から二、〇〇〇円安くして貰いたい旨の値引の交渉を受け、これを被告を通じて国分商店に伝えてその承諾を得たこと、

(ホ)  前示のように、最終的には田山正三が本件不動産の買主となったが、当初は本件不動産につき業者として仲介斡旋をしていた田山力夫自身が買取る希望を有し、その線で買取り交渉を進めたが、買取資金捻出の金融上の必要等から弟の田山正三を買主とするに至ったものであること(乙第一号証の冒頭に買主として田山力夫と一旦記載された後これを抹消して田山正三の氏名が記されているのはこの間の消息を示すものである)、そしてそのような事情から、田山力夫は仲介の報酬を誰にも請求しないとともに、買主側からは誰にも仲介の報酬を支払わないことにつき、原告、被告、田山力夫の三者間に諒解が成立していたこと(甲第九号証のうち、本文末尾の「尚若松氏の件は……」というのは、右のように、田山正三は仲介の報酬を出さないから、原告に対する報酬については、被告の方で、原告の報酬を然るべく面倒をみるという趣旨であると解せられる)。

三、以上の認定事実によるときは、本件不動産売買の斡旋仲介の売元付としての仲業介者は被告であることは明らかであり、買元付にあたるものは前記田山力夫であり、原告は被告の依頼に応じて両者の間に立って仲介斡旋の労をとったいわゆる中間業者であるということができる。しこうして前示のように買主の側からは仲介料の報酬を受取らないことにつき原告、被告および田山力夫において諒解し、また田山力夫は報酬請求権を放棄したのであるから成立に争いのない乙第二号証の宅地建物斡旋規定(東京都宅地建物取引業会の規程)第三〇条の趣旨によれば、被告は中間業者たる原告に対し、売主から受領した報酬のうち二割を控除し、その残額の二分の一を支払うべき義務があるものといえる。しこうして被告が売主である国分商店から金一、四七一、〇八八円を受領したことは当事者間に争いがないから、被告の支払うべき金額は計数上五八八、四三五円となる。

したがって、原告の請求は金五八八、四三五円とこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四二年三月二七日からその支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余は失当である。よって訴訟費用の点につき、民事訴訟法第九二条本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 伊東秀郎)

〈以下省略〉

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